転倒に関するステートメント(発言・声明文)
日本老年医学会と全国老人保健施設協会が合同で
「介護施設内での転倒に関するステートメント(PDF)」および「介護施設内での転倒を知っていただくために 国民の皆様へのメッセージ(PDF)」を発表しました。
ステートメントには発言、声明、宣言などの意味があります。今回は高齢者の転倒について少し考えていきたいと思います。
子どもも大人も転倒する
皆さんの中で転倒したことのない方はいらっしゃらないと思います。赤ちゃんが寝がえりをするようになり、座れるようになりかかったころには既に何度も転倒を経験しているでしょう。赤ちゃんと言わず子どもはよく転びます。大人はどうでしょうか?日常生活においてはめったに転ばないと思いますが、それでも何かに引っかかったり段差に気がつかなかったり・・・たまには転びます。高齢者になると転倒が増えるのはよく知られているところです。
「転倒」は高齢者の3大事故の一つ
高齢者の自動車事故が社会問題となっているように思います。それでも高齢者の事故は実は室内のことが多いのです。「転倒・転落」「誤嚥などの窒息」「不慮の溺死および溺水」は、高齢者における3大事故とも呼ばれ、それぞれが交通事故よりもずいぶん多いのです。
残念ながら施設でも転倒はあります
皆さんは、施設は介護のプロが集まっているので、絶対に転倒事故は起こらないとお考えになりますか。施設では転倒予防のための職員教育はもちろん、最近は転倒防止センサーなどの機器も使用しながら、転倒を未然に防ぐ努力を常に行っています。夜中も職員が定期的に巡回します。ケアプランなどで、その方の転倒リスクを減らす工夫もできます。けれども残念ながら365日24時間すべてのご高齢者が転倒しないように、ずっと傍で見守り続けることはできません。
時折耳にするのが「施設が転倒させた。」という言葉です。実際に転倒を防げなかったのですから、大変申し訳なく、ご家族のお気持ちは十分承知いたしております。おっしゃる通り、目を離したちょっとした隙の転倒は確かに転倒の瞬間は見ていなかったことになります。
学会と協会の「皆様へのメッセージ」の内容
今回の学会と協会のステートメントの「皆様へのメッセージ」で私が特に目をとめた記述がありました。それは、「高齢になるほど十分な 転倒予防対策をしていても一定の確率で発生することがわかっています。」「予防できる転倒の範囲を広げる努力を続けることは専門職の使命ですが、予防できない転倒が存在することも事実」という表現がなされてることです。「防げる事故」と「防げない事故」があるけれども、努力し続けることは私たち施設職員の使命だと改めて感じました。
「老年症候群としての転倒」「個人の要因による転倒リスクは、疾患の進行や身体機能の低下によって加齢とともに増大します。」という記述もあります。そうです、「転倒」は一つの症状だったのです。
「転倒リスク」は、家族と施設側の相互理解の出発点
私は、日頃からご本人・ご家族と施設側のさまざまな認識の違いは少しでも早く、少しでも小さく、修正すべきだと考えています。双方がご本人に対する共有の認識をもたないと、仮に転倒した後に「実はご本人は転倒しやすい状態でした」と申し上げても、当然ご家族は納得しがたいでしょう。そういう意味で、今回のステートメントやメッセージで「転倒リスク」の発信はご家族と施設側の双方にとって良い相互理解の出発点になり得たと感じています。 次回からも、もう少しだけ転倒のお話を続けたいと思います。