第44回日本作業療法学会
平成22年ですから古い話です。私は当時大学の講師をしていた同級生と共同で「要介護高齢者の転倒・転落リスク管理への取り組み」を発表しました。その折に大学人となった年下の同級生からの厳しい指導(!)を受けたこと、開催地の仙台名物の牛タン、学会前夜に屋台で携帯電話を忘れたこと、大変思い出の多い学会でした。今日はそのお話をなるべく簡単にお話しします。
転倒リスクとは
通常高齢者の転倒リスクと言えば、その方がどのくらい転倒しやすいか?とか、どうすれば転倒しにくくなるか?どうすれば転倒してもケガをしにくくなるか?などのお話を想像されるのではないでしょうか?私の話は少し違います。前回お話ししたご本人・ご家族と施設側のずれを小さくするための取り組みです。加えて事前にお話ししておくという事が肝となります。
転倒リスク分類と対応
私は高齢者の転倒リスクを「軽度」「中等度」「重度」に分けました。通常は身体の状況や認知機能、疾患などでどれだけ転びやすいかで分類することが多いと思いますが、私の場合は違っていました。
「軽度」:人は誰でも転倒します。特に「ここが危ない」「ここを守る」といったケアプランを立てることが難しい方たちです。この方たちには普段、転倒に関して特別のケアをしません。転倒の話題もあまりありません。入所時にきちんと高齢者の転倒リスクについて説明すべきだと思います。この方たちも「熱がある」「夕べ眠れなかった」というような時には一時的に転倒のリスクが上がります。なかなかケアプラン変更までは困難ですので、「申し送り」で対応するとよいと思います。これがなかなか難しいところです。
「中等度」:例えば、夜中2時ごろ必ずナースコールを押さずにトイレに行かれ、この時寝ぼけて転倒するリスクが高い。「家に帰りたい」の訴えが増えると情緒不安定となり歩き回り、歩き疲れて転倒リスクが上がる、といった方たちです。この方たちにはケアプランで対応いたします。
毎晩2時前にはトイレ誘導を行う。帰宅要求があれば落ち着くまでしっかりお話を伺う、等です。
ケアプランですから、当然ご家族にもご説明して同意をいただくことになります。「軽度」と同じ想定できない場面での転倒は防げません。
「重度」:例えば「夜中トイレに行くと転倒リスクが上がるけれども、トイレに行く時間の予測がつかない」「情緒不安定の前兆がわかりにくく、突然走り出す」ようなの状態にある方などはなかなかケアプランで防ぐことは困難です。「今どのような状況」で、「どのような対策をとっており」「どういったリスクは対応できる」が、「どういったリスクは対応できない」のか。転倒した場合は「どういったリスクがあり」「どうなればどうするのか」といったことの説明やご本人・ご家族が不安に思われることを少しでも軽減できるよう支援する必要があると思います。
結局は信頼関係と予測できているという事
こう考えると学会発表といいながら当たり前の話ですね。入所前、ご相談のあったときからご本人・ご家族と施設側の関係づくりは始まっていますから、最初の出会いからどのくらい信頼関係を積み上げることができるかという、ありきたりの話なのだと思います。そして「まさか、そんなことになると思っていなかった」という衝撃を与えてしまわないよう、事前に状況をお知らせすることが重要ではないかと思います。今回も前回同様に「転ばぬ先の杖」のお話だったと思います。