アルツハイマー型認知症の原因・症状
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。そのなかでも最も多いとされるアルツハイマー型認知症の原因はまだ解明されていませんが、現時点では、脳内にアミロイドβという蛋白質が蓄積して、それが神経細胞の変性に関係するという「アミロイド仮説」が有力です。症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。アルツハイマー型認知症の時間的経過は初期、中期、末期に分類され、初期には記憶障害、記銘力障害(新しく体験したことを覚えられない状態)、失見当識(日時、場所、人物や周囲の状況について認識できない状態)が出現します。それから、徐々に知的機能障害が進行し、中期には中等度に知能低下し精神症状および問題行動が顕在化し、徘徊、失行、失認(妄想、幻覚)が出現するとされています。 さらに末期には無言、無動という状態になります。
アルツハイマー型認知症の治療
アルツハイマー型認知症を根本的に治療して元の状態に戻すような治療法は、現在はまだ存在しません。ですから、病気の進行をできるだけ遅らせ、認知症の方がその人らしく暮らせるように支えること、そして家族の介護負担を軽減することが治療目標となります。
そのため、治療は認知症の「周辺症状(BPSD):抑うつ、徘徊、暴力・暴言、睡眠障害、介護拒否などの行動・心理症状」へのアプローチになります。治療法には薬物療法と非薬物療法があり、これらを組み合わせて治療・ケアを行います。
まずは「適切なケア」や「環境調整」、「リハビリテーションなどの非薬物療法」が優先されます。
適切なケア
「パーソンセンタードケア(その人らしさを尊重するケア)」の考え方を大切にし、認知症の人の視点や立場に立って理解しようと努めること、得意なことや保たれている機能を活用する。
環境調整
認知症の人が安心して気持ちよく過ごせるようにデイサービスやヘルパー活用などの介護保険の利用、転倒予防のための安心・安全な室内環境などを整備する。また、時間的環境としては睡眠覚醒リズムの維持ができるような工夫も必要。
非薬物療法 : 認知症の方へのリハビリテーション
非薬物療法で主に実施されるのが、心理社会的アプローチです。医療機関や高齢者施設の作業療法士などの専門職がかかわり、認知症の方へのリハビリテーションとして「作業療法」「回想法」「音楽療法」「学習療法」「運動療法」などを行います。
なお、ご参考まで、高齢者施設の中で唯一「介護老人保健施設」のみがそのほとんどの施設で「認知症短期集中リハビリテーション」として、認知症の中核症状(記憶障害)や周辺症状(BPSD)の改善に有効として国も推奨している短期集中型のリハビリテーションを行っています。
- 作業療法
塗り絵や小作品作成・習字など創作活動(生産的活動)、音楽鑑賞などは五感を刺激して脳の活性化や認知機能の改善をはかることができる。 - 回想法
昔の写真・玩具・道具などを見て思い出を話してもらい、その記憶を「(他の人に)伝える」こと、知的機能や社会的機能を維持・改善が期待できる。 - 音楽療法
懐かしい歌や音楽を聴くことは、リラックス効果がありストレスが緩和されやすい。歌ったり簡単な楽器を演奏したりすることで、身体能力の改善も期待できる。 - 学習療法
一般的には「読み書き」や「計算」のプリントなどを使用して学習するもので、認知症を予防・改善する効果が科学的に証明されている唯一の非薬物療法ともいわれている。 - 運動療法(身体的リハビリテーション)
体力・筋力の低下がみられる認知症の方を対象にさまざまな運動を行い、健康維持や体力回復をめざす。筋肉をほぐし痛みを和らげ、歩行訓練や転倒予防にも役立つ。
[薬物療法]
上述のような非薬物療法を用いても認知症の周辺症状(BPSD)のコントロールが難しく、例えば大うつ病、他者に危害を加えるような妄想、自傷・他害の原因となる攻撃性がみられるような場合や、介護する人の負担が大きい場合は、抗精神病薬、抗うつ薬、漢方薬などを使用することがあります。
これらの薬剤を投与するにあたっては、高齢者では副作用が生じやすいこと、転倒や骨折、嚥下障害などにより生活能力が低下する可能性があること、誤嚥性肺炎や死亡のリスクが上昇することを考慮し、慎重に行う必要があります。そのため、周辺症状(BPSD)に対して薬物治療が行われる際には、精神科医などの専門医を受診し薬の調整をすることが重要です。
すでにかかりつけ医がいらっしゃる場合は、かかりつけ医の先生に相談して精神科を紹介いただくか、精神科クリニックや精神科病院に直接「お困りの症状(周辺症状)」についてご相談いただくのがよいでしょう。救急や急性期病棟を有する精神科病院では短期(約3カ月)の入院治療で認知症の周辺症状の緩和することも可能です。また、精神科ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が、退院後の生活についてのご相談にも対応します。退院後は自宅・老人ホームに戻られ再度かかりつけ医のもとで治療をする、また老人保健施設などで認知症短期集中リハビリテーションなどを受けるという選択肢もあります。
認知症の予防
すでに認知症と診断され生活に支障をきたすほどではない場合でも、記憶力などの低下が著しく、認知症の手前のような状態のことを「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」と呼びます。これらの約半数は5年以内に認知症に移行するといわれていますので、この段階から認知症予防を行い、認知症の進行を遅らせることが必要です。
自身やご家族の認知機能の低下が気になるようであれば、念のために専門医を受診することが早期発見・早期対応につながります。まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて認知症サポート医や認知症疾患医療センターの専門医療機関、精神科を受診しましょう。
これまでの様々な研究で、中・老年期の運動習慣や定期的な身体活動が、アルツハイマー型認知症を含む認知症の発症率を低下させることが報告されています。また、聴力低下のケア、高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病や抑うつを予防・コントロールすること、禁煙、社会的孤立を避けることなどにより、認知症の一部は予防できる可能性があるといわれています。したがって、認知症の予防としても適度な運動、バランスの良い食生活、良質な睡眠、余暇活動を楽しむことを生活の習慣として取り入れ、生活習慣病を治療することが重要です。
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ご参考
「高齢者に寄り添うご家族の方へ」(医療法人泯江堂のご案内) PDF