油山病院の家族会「あけぼの会」

ご家族と病院が協力して治療効果を高め、社会参加の促進に努力し、患者の福祉の増進を図ることを目的として会の運営を行なっているのが、当院の「あけぼの会」です。
この会は、1988(昭和63)年にその3年前に作られた家族懇話会を引き継いで誕生しました。1994(平成6)年からは医療相談室(現在は地域医療連携部の医療福祉相談室)が事務局となりました。

会では毎年4回の定例会(平成29年以降は年5回)を開催していますが、2003(平成15)年から講演会と懇話会の二部形式を採り入れています。毎回、世話人の方やご家族とともに試行錯誤しながら、様々な取り組みを行なっています。

そのなかで2016(平成28)年に、「あけぼの会」の周知度及び満足度についてアンケート調査を行ないました。集計結果から、ほとんどの参加者の方が会や講演について満足を得られていることがわかりました。

さらに、アンケートの質問で「あけぼの会」を知ったきっかけとしては、「病院職員から聞いて」と回答したご家族の割合が高く、約半数となっていました。そのため、当院全職員が「あけぼの会」についてよく理解し、取り組み等についてもご家族に正確にお伝えできるように努めなければならないと感じました。

その他に、アンケートの結果から会員の約9割の方が60歳以上であり、ご家族の高齢化が深刻となっている状況も把握できました。「あけぼの会」では、患者さんと高齢化するご家族の今後の地域生活について、より積極的に情報収集や意見交換の必要があると考えられます。

油山病院の家族会「あけぼの会」の講演会風景

写真は当法人の50周年記念誌に掲載された「あけぼの会」講演会の様子。

油山病院の家族会「あけぼの会」の懇話会の様子

写真は当法人の50周年記念誌に掲載された「あけぼの会」の懇話会の様子。

精神科病院における家族会の意義

当院のような精神科病院でご家族主体の家族会を行なうことは、ご家族にとって様々な意義があると同時に、治療者側である医療機関スタッフにとっても意義深いことです。私たちは、以下のように、いくつかの視点から家族会の意義を考えてみます。

まず、発症して間もない患者さんのご家族の多くは、精神科の病気の知識も対応の仕方を知る由もなく戸惑われます。精神科病院であれば精神保健福祉士や看護師などのご家族に直接接する機会が多い専門職が、そうしたご家族の状況も把握して、適切に「家族会」をご案内することができます。早い段階で家族会を知り、他のご家族との出会いを通して共感し合えることも多く、大きな安心感が得られます。

また、単に安心感のみならず、精神科医療の専門職スタッフが配置されている「病院」であれば、ご家族に対して精神科の病気についての知識や対処法をお伝えできる場面が増え、適切な対応を学習していただくことが可能です。精神科の病気では、発病後のご家族の関わり方が本人の症状に与える影響は大きいと言われています。ご家族が病気について学習していただくこと、さらに患者さんへ適切な対応をしていただくことは、治療上も大変意味のあることです。

もうひとつは、家族会は私たち医療機関スタッフにとって、ご家族の率直なお気持ちに触れることができる貴重な時間でもあります。ご家族の一つひとつのご発言のなかに、患者さんやご家族が本当に望んでいらっしゃることは何なのかを知るヒントがあります。それは今後の治療や支援に大きな意義をもたらします。そのためにも、自由闊達な意見や情報交換の場としての家族会を存続させることが大切だと思います。

家族として統合失調症を理解する

さて、「あけぼの会」では医療専門職を含む様々な講師をお招きして年間4回の講演会を行なっていますが、ここでは平成28年に開催した当院精神科の大西医師の講演会の内容を要約して、以下のようにご紹介します。「患者さん、ご家族のみなさんへ~統合失調症の理解と治療の流れ~」と題して、お話ししたものです。

講演内容

最初に統合失調症という病気の原因ですが、これは「生まれながらの素因」にストレスが加わることで、脳内の神経伝達物質が異常や過剰なることによるものと言われています。

統合失調症では「陽性症状」と「陰性症状」がありますが、「陽性症状」は統合失調症特有の症状で発病後まもない急性期や再発時に見られる症状で、主なものとして幻覚、幻聴、被害妄想、思考の混乱、感情の不安定さ、病識がない、睡眠障害などが挙げられます。

「陰性症状」は、消耗期、回復期に長期にみられる慢性の症状で、感情が湧かない、意欲がない、思考と会話が乏しい、過剰な睡眠などが主な症状とされています。

ただし、発症や再発が必ずしも陽性症状から始まるとは限りません。物事が思ったとおりに進まない、頭の中が真っ白、動作がピタッと止まるなどが、病気の始まりのこともあります。

治療は①薬物療法(陽性症状、陰性症状の改善、神経を休める)、②精神療法(医師との面接による心理サポート)、③リハビリテーション(作業療法、レクレーション療法、心理教育、SST)がメインで、急性期の症状の回復から自律までをサポートします。

また、再発を予防するために大切なのは、(患者さんご本人が)回復を焦らない、(ご家族など周囲の人が)焦らせないことです。そして、自己判断で服薬を中断しないでください。服薬中断された方の60~70%が1年以内に再発しているというデータがあります。さらに定期的に通院して、再発のサインを見逃さないようにしましょう。再発のサインは、人によって異なりますが、一般的には食欲がなくなる、生活のリズムが崩れる、ソワソワして落ち着きがなくなる、引き込もりがちになる、突然活動的になるなどの様子や行動の変化に現れます。その方にとっての再発のサインを周囲の人も把握できると、早い段階での治療が可能で、短期間での回復も望めます。

統合失調症のご家族の心構え

さらに、大西医師からのご家族へメッセージを続けます。先述したように、ご家族の対応は治療のうえでも重要ですから、以下の項目を意識していただき、適切な対応を心がけていただければ幸いです。

講演内容

行政が担う精神保健福祉業務

平成29年には、早良保健所の健康課精神保健福祉係より吉本朋美保健師をお招きして「社会資源の利用について」というテーマでお話しいただきました。

講演内容

まず、早良保健所(早良区保健福祉センター)が担う精神保健福祉業務として、大きく「相談等事業」「精神医療対策」「社会復帰支援」の3つがあることをご理解ください。最近は障害福祉サービス利用件数の増加や地域移行・未治療等様々な問題を抱える困難ケースへの対応も多くなり、相談件数は年々増えています。

3つのなかの「相談等事業」を最初にお話します。この「相談等事業」は、

などの普及啓発の活動を指します。

「精神医療対策」としては、自立支援医療、精神障害者保健福祉手帳の支給が挙げられます。さらに「社会復帰支援」においては、福祉乗車証・福祉割引証、障害福祉サービス、地域生活支援事業を行なっています。

「こころの病家族講座」は、「統合失調症の理解、家族の対応、当事者からのメッセージ、就労支援」をテーマに毎年実施しており、家族交流会は,偶数月の第2水曜日13時半から、地域活動支援センター「ぷらっと」で開催しています。「うつ病予防講演会」は、早良区唯一の精神科病院である油山病院の医師や臨床心理士の協力で毎年実施しています。

障がい福祉サービス活用して地域生活

さらに、この回の「あけぼの会」では障がい福祉サービスを利用しながら地域生活を営むAさんとBさんの例が紹介されました。(下図参照)

それぞれの方のご了解を得て、具体的な福祉サービスの利用を活用し地域で自立した生活を営める事例をご紹介したことで、ご参加の方々の漠然とした不安を少し払拭できたように思います。

障がい福祉サービスを利用しながら、地域生活を営む例

障がい福祉サービスを利用しながら、地域生活を営むAさんとBさんの例

家族の「笑って元気」をテーマに講演会

平成29年の「あけぼの会」では、これまでと異なる企画も試みました。家族が笑って元気になろうを目的に、おおいた観光特使である矢野大和氏の「笑って元気!!」という講演会と、昼食を取りながらの懇話会を行いました。

矢野大和氏は、大分県宇目町の鷹鳥屋神社の宮司で元大分県佐伯市職員。大分県宇目町に完成した道の駅「うめ」の初代店長となり、イノシシラーメンを考えて黒字経営に貢献。その手腕が認められ、営業を中心とする観光大使となってふるさと宇目町をPRすべく全国各地を奔走されているというユニークな経歴の持ち主です。50歳で佐伯市役所を退職後、おおいた観光特使に任命され、毎年400回を超える講演を行っている方です。

当日は、笑って元気と書かれたはっぴを着て、講師矢野大和さんが登場されました。講師の紹介がおわり、講演のスタートです。矢野さんの講演は口で演じる「口演」です。親しみがわく大分弁と、高校時代から始められたという落語を織り交ぜ、軽快な語りで会場の皆さんを笑いに引き込んでくださいました。話された内容は、面白さのなかにも感動したり、考えさせられるものでした。印象に残っているお話をいくつか紹介したいと思います。

講演内容

“ものごとを肯定的に考える”

自分と意見が違う人の話を聞くときの反応に2つの反応がある。「そんな考え方もあるんだな」と肯定的に捉える聞き方と、「それは違う」と否定的に捉える聞き方。肯定的に捉えると、自分の考えとは違った視点からものごとを見ることができ、アイデアが生まれる。

“笑うことで余裕がうまれ、人を褒めることができる”

どんなときも笑うことを忘れないように。日々の生活の中にちょっとした笑いがひそんでいる。笑うことで心に余裕がうまれ、自然と人の良いところが見えてくる。

“人は人から元気をもらう”

人は人の役に立っているという実感、必要とされることで喜びを感じ、生きる力となる。「ありがとう助かるよ」と相手に言葉にして伝えること、「あなたがいないと困る」と思ってもらうことが大切。

精神科の家族会に参加されたご家族の声

「あけぼの会」では、講演会・懇話会の後にアンケートを実施し、ご参加いただいた方の率直なご感想をお聞かせいただいています。平成28年と平成29年にいただいたご感想の一部を以下に掲載しておりますので、ぜひご参考になさってください。

[平成28年]

A:第1回「あけぼの会について」

(講師:地域医療連携部課長 精神保健福祉士 内野秀雄)

  • 「 病院の家族会もぜひ社会資源をふやしていく活動に参加していけたらと思います。」
  • 「親亡き後について、対策を取り上げていただきたい。」

B:第2回「統合失調症の理解と治療の流れ」

 

(講師:医局 精神科医 大西良)

  • 「家族会は、病気への知識を得たり、悩みを打ち明けたりする場で、貴重な機会です。」
  • 「今回、初めての参加で、懇話会では共感できるお話しばかりで同じ悩みを抱えている方々と接することができただけでもありがたかったです。このような家族が勉強する場があるように、当事者たちにも病気や薬のことを学べる場があれば家族にとってもありがたいと思います。」
  • 「いろいろな話が出て、皆様の考えが聞けて、良かったです。」
  • 「いつか[親亡きあと]のことをテーマにしていただければと思います。」

[平成29年]

A:第1回「社会資源の利用について」

(講師:早良保健所健康課精神保健福祉係 保健師 吉本朋美氏)

  • 「親亡き後が心配でしたが、講演を聞いて色々な制度があることを知り、少し安心しました。」
  • 「障がい福祉サービスの理解が整理できて良かったです。緊急時に本人や家族が利用できる制度があれば知りたいと思います。」
  • 「当事者の生活支援について、家族会でも具体的な事例で討議できれば。」

B:第2回「笑って元気!」

(講師:おおいた観光特史 矢野大和氏)

  • 「初めての昼食付の講演会、とても楽しくいい時間を過ごすことができました。」
  • 「年齢を重ねるとなかなか家で大笑いすることがないので、楽しい一日を過ごすことが出来ました。」
  • 「メンバーの皆さんのお話しでずいぶんと気持ちが切り変わりました。息子の人生だから、もう一度寄り添っていこうと気持ちもあらたになりました。」
  • 「口演(講師は、講演ではなく、あえて口演と言われている)は面白く、拝聴させていただきました。懇話会は全員発言があり、有意義でした。」
  • 「今回は病気についてのお話しではなく、気分転換も含めて良い話だったと思います。人間にとって「笑い」は重要な元気になる栄養源です。前向きに生きていくことを自覚することは大事ですね。」
  • 「とてもおだやかな、また元気をいただけた時間をありがとうございました。」