精神科における身体合併症とは

 精神的な病気(精神疾患)と身体的な病気(身体疾患)の両方を抱えて悩んでいらっしゃいませんか。精神科での治療が優先されるべきなのか、身体の治療が優先なのだろうか、そもそも精神科で身体疾患の治療はできるのだろうか。
そのような悩みをお持ちの方々の、精神疾患に身体疾患が合併した状態を「精神科身体合併症または身体合併症」と言います。
精神科の治療の現場では精神疾患、身体合併症の重症度にかかわらず、精神疾患特有の症状・行動や薬剤の副作用などを考慮しながら身体疾患を治療していきます。
 近年の精神科において、身体合併症の患者さんが増加しています。それは高齢化が大きな一因と考えられています。増加する認知症の患者さんはもちろん、統合失調症の患者さんも加齢とともに身体疾患を合併する割合が高くなっているからです。
それでは、精神科での身体合併症にはどのようなものがあるのか、わかりやすいようにその起因ごとにてご説明します。

偶然的発生によるもの

これはあらゆる身体疾患があげられます。陰性症状や、認知機能低下などのため、ご自身で症状を訴えることができず、早期発見されることが困難となり、相当進行してから身体疾患が発見されることがあります。

薬剤の影響や副作用によるもの

向精神薬の副作用は注意をしていても必ず遭遇します。肺炎、イレウス、パーキンソン症候群、便秘などが比較的多く見られます。また、悪性症候群や横紋筋融解症という重篤な身体疾患が出現することも稀にあります。
これらの身体疾患は、薬剤により症状が安定し、同じ薬剤を長年同じ量を服用していたとしても、急な体調の変化によって、代謝や排泄に異常が生じ、中毒症状を呈することもあります。

精神症状や行動に起因するもの

まず代表的なものにアルコール依存症の低栄養、肝障害、膵炎があります。その他に、摂食障害による低栄養状態もあります。これらは、精神疾患による患者の行動自体の問題も多く含んでいますので、精神科以外では対応や管理が困難なケースが多いと言わざるを得ません。
自傷行為や自殺企図による多量服薬やリストカットなどの急性の身体合併症は、まず、身体科の医療機関での治療を優先させていただき、身体症状が安定した後に、精神科での治療が開始されることがほとんどです。

身体疾患により精神症状が出現したもの

これは器質的に問題が生じて起こる精神病です。精神症状が前面にあるため、身体疾患の見落としが起きやすい状況が発生します。
軽度の意識障害や急激な認知機能の低下や急激な錯乱状態などは、器質性精神障害が疑われます。脳の異常や甲状腺異常、脱水など、その出現している症状に対して、充分に精査し、器質のある疾患に対してまず治療を行う必要性があります。 以上がおおむね精神科領域で起こり得る身体合併症と言えます。

精神科病院の役割

身体合併症を有する精神疾患患者に対して、精神科病院ではまず、身体疾患の治療を優先します。例えば先述してあるように、器質的に出現した症状に対しては、器質自体の治療を行うことで、二次的に発生している精神症状の改善が十分に見込めます。しかし器質疾患の治療を行わなければ、症状の改善は困難であり、症状がさらに悪化するという事も考えられます。
また、先述した自殺企図や自傷行為の場合もそうですが、身体の急性疾患(内臓疾患や脳疾患、重度の肺炎等)や外科系疾患(骨折等)、急性薬物中毒や外傷などは、身体科での治療が優先されます。

精神科看護師として身体合併症を看るということ

日本精神科看護協会 精神科認定看護師(旧領域:精神科身体合併症看護)の立場において、まずは自施設でどの程度の身体疾患を診ていけるかという事を常に念頭においていかねばなりません。もちろん総合病院での精神科と精神科単科の病院では、設備面と人材面で大きく違いがあり、身体の急性疾患がある場合は、総合病院を優先的におすすめします。しかし、どのような精神科の医療機関であっても、身体合併症に対し、自施設で提供できる医療を明確にしておくことが大切であると考えています。
私たち精神科の看護師は、ご入院になった身体合併症の患者さんの精神症状を看ながら、治療経過と共に出現する可能性のある身体疾患に対して、リスクを理解し、予防策を考え、少しの異常でも早期発見でき、更なる重篤化を防ぐという事ができるように日頃より修練をつんでいます。

当院の取り組み

当院においては、受診や入院相談があった際、地域医療連携部の看護師が、情報を確認し、医師と協議し、受け入れの判断を行っています。
身体疾患がある方または疑いのある方の相談に関しては、どうしても対応が慎重にならざるを得ない場合がありますが、それは患者さんがより安心安全な治療を受けていただくための医療者の配慮・判断であることをご理解いただきたいと思います。
また、地域の総合病院と協力体制を確立しており、身体疾患で緊急性が発生した場合には、協力病院への外来受診や転院もありますが、身体疾患が改善したのち、再度当院でお引きうけ治療を継続するという連携が構築されていますのでご安心ください。

文責 看護師T.S