解離性障害とは
人は通常自分の存在をつながりのある、一つのまとまったものとして認識しています。つまり、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、自分がどういう人間であるかというアイデンティティ(自我同一性)をもち、自分の身体が自分のものであることを実感できます。ところが、その意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて体験されるようなことが生じ、その症状が深刻で、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすような状態は、解離性障害と呼びます。かつては「ヒステリー」と称されていましたが、現在ではその用語は用いられなくなりました。
要因としては、衝撃的な出来事、戦争、災害、事故などにおいて突然大きな恐怖を受けることや、幼少期の身体的虐待や性的虐待、養育者との愛着の問題、解離を生じる素質などが考えられています。
なお、解離症状は解離性障害ばかりではなく、心的外傷後ストレス障害や境界性パーソナリティ障害、発達障害などの症状としても現れます。
解離性障害の症状
解離性障害には様々な症状がありますが、主な分類と症状は以下の通りです。
- 解離性混迷
急に身体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなること。周囲の人が話しかけても応答がなく無表情のような状態。 - 解離性健忘
一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれているにもかかわらず、特定の場面や 時間の記憶だけが抜け落ちて思い出せない状態。 - 解離性遁走(とん走)
自分が誰かという感覚がないまま突然まったく知らないところにたどり着く、失踪のように行方をくらまし新しい生活を始めたりする、ふいに帰ってきてその間の記憶がないような状態。 - 離人症性障害
自分が自分であるという感覚が障害され、まるで自分を外から眺めているように感じられる離人症状があり現実感が消失される状態。誰にでもあるような一時的なものではなく、持続的あるいは反復的で、日常生活や社会生活に支障があり、対人関係にも困難を抱えた場合は治療の対象。 - 多重人格障害(解離性同一性障害)
一人の人間の中に全く別の人格が複数存在し交代で現れる状態。長期間にわたる激しい苦痛や衝撃的な体験の反復をすると、その度に解離が起こり、苦痛を引き受ける別の自我が形成されてしまう。その別の自我がその間の記憶や意識を引き受けて、本来の自我には引き継がれず、それぞれの自我が独立した記憶をもつようになることが発生の原因と考えられている。
解離性障害の診断と治療
本人が自分の症状に気づかず病識を持っていないこともあります。そのため、診断にあたる精神科医は面接において注意深く症状を観察すると同時に、周囲の方から解離に関した情報を得るように努めています。さらに、MRI検査、脳波検査、および薬物使用の有無を調べる血液検査や、内科診察が必要な場合もあります。心理検査も必要に応じて行います。これらをもとに、解離性障害の診断基準に照らし合わせて、診断することになります。
初期の治療では安心感を持ってもらうための精神療法に加え、薬物療法を併用することがあります。治療が進むにつれカウンセリングを行ったり、必要に応じて入院治療を選択したりする場合もあります。なお、解離性障害の治療においては、まず治療者との信頼関係を築くことが第一の目標になりますが、それもたやすいことではありません。気長に根気強く治療を続けることが必要になります。
また、解離性障害の治療においては周囲の方のサポートも重要です。症状の特徴を知り、症状が生じた際の対処方法を学ぶことも長期的な経過を考えるうえでは大切なことです。