不眠とは

日本人の5人に1人が「よく眠れない」、「寝ているのにスッキリしない」と感じており、特に60歳以上の約3人に1人が睡眠問題を抱えているといわれます。一般的に、不眠とは身体的な疾患や精神的なストレス・疾患などによって充分に眠れない状態をいいます。生活リズムの乱れや環境の変化、心配ごとが生じて寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりするのは一時的な不眠だと思われます。
不眠の症状は人によって異なりますが、おおむね以下の4つに分類されます。

  • 入眠障害(寝つきが悪く、30分以上経っても眠れない)
  • 中途覚醒(睡眠の途中で目が覚めて、なかなか寝つけない)
  • 早期覚醒(朝早く目が覚めてしまう)
  • 熟眠障害(ぐっすり眠った気がしない)

これらの症状が1つだけではなく組み合わさって複数の症状が現れる場合もあります。ただ、睡眠時間については個人差があり、睡眠時間の長さ自体は問題ではありません
なお、「不眠症」は、「夜間の不眠が長期間(1カ月にも及ぶような」続き、「日中に心身の不調が生じ、日常の生活に支障が出る」状態を指します。眠りが不充分でも日中の生活に問題がなければ、「不眠症」とは診断されません。

不眠の原因

不眠の原因となるものとしては、以下のような身体的な疾患、ストレス・精神的な疾患、薬の副作用などが考えられますが、不眠の改善のためには原因に応じた対応が必要です。不眠が続くと「今晩も眠れないのでは」と不安になり、なおさら不眠が悪化するという悪循環の可能性が高くなります。 それぞれの対応で効果が出ないときは、精神科など専門医に相談しましょう。

  • ストレス(ストレスや緊張)
  • 身体的な疾患(高血圧、心臓病、・呼吸器疾患、腎臓病、前立腺肥大、糖尿病、関節リウマチ、アレルギー疾患、脳出血、脳梗塞などの病気。その他にも睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群など)
  • 精神的な疾患(うつ病をはじめ、多くの精神疾患は不眠を伴います。「早期覚醒」と「日内変動(朝は無気力で、夕方からは元気が出る)」のいずれも該当する場合は受診が必要)
  • 薬、刺激物(降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤などが不眠をもたらす可能性もあります。抗ヒスタミン薬は日中に眠気を促し、カフェイン、ニコチンは覚醒作用があります)
  • 生活リズムの乱れ(交替制勤務、時差などで体内リズムを乱れることが多いです)
  • 環境(騒音、光、寝室の温度や湿度)
  • 生活習慣の改善

    不眠の改善のためには、まず前述したようなさまざまな不眠の原因を取り除くことが大切です。加えて、自分流の安眠法を工夫すると好ましいです。以下にポイントをまとめましたので、参考にしてください。
    睡眠時間には個人差があります。また年齢を重ねると必要な睡眠時間は少しずつ短くなります。長時間の睡眠にこだわり過ぎず、自分に合う睡眠時間を設定してよいと思います。

    就寝、起床時間を一定にする

    平日、休日にかかわらず、できるだけ同じ時刻に就寝、起床し、睡眠リズムを崩さないようにすることが大切です。太陽光は体内時計を調整する働きがありますから、起きたら日光を浴びることで体内時計が整います。さらに朝食をとることも心身を覚醒させます。日中しっかり活動ができるという心身のリズムを整えることことは、睡眠にも大切な要素です。

    寝る前にリラックスタイムを

    寝る前は、心身の緊張がほぐれリラックスした状態でいることが望ましいです。ですから、気持ちの負担にならない自分に合ったリラックス法を身につけておくとよいでしょう。また寝る前だけでなく日常生活においてストレスをため過ぎない生活を送ることも大切です。趣味などでうまく気分転換する習慣を身につけると良いです。

    運動を習慣化する

    習慣的な運動は寝つきをよくし、深い睡眠が得られることへの効果があると言われています。負担にならない程度の有酸素運動などを習慣的に続けるとよいでしょう。激しい運動し過ぎたり就寝直前に運動したりすることは、逆に睡眠を妨げます。

    寝酒はしない

    寝る前の飲酒は寝つきがよくなると思われがちですが、効果は一時的です。実際は深い眠りが減り、早朝覚醒が増えてきて睡眠の質を下げる結果になります。

    睡眠を妨げるものを就寝前にとらない

    カフェインは覚醒作用があり、入眠を妨げます。さらに利尿効果もあるので、夜中に尿意で目が覚める原因にもなります。また、たばこに含まれるニコチンは、カフェインと同じく覚醒作用があます。さらに就労前の喫煙も注意が必要です。

    快適な寝室を準備する

    寝室のベッドや布団、枕などは自分に合う快適なものを選びたいものです。また室内の温度・湿度は、季節に応じて、心地よいと感じられる程度(睡眠のための適温は約20℃、湿度は40%-70%くらいが良い)に調整することも重要です。気になる音はできるだけ遮断し、室内は必ずしも真っ暗ではなくて構いませんが、明る過ぎないほうがよいと思われます。

    眠気を感じてから床に就く

    「早く寝なくてはいけない」と思い、眠気を感じないのに無理やり眠ろうとすると、かえって緊張してしまい寝つきを悪くします。眠気がない場合は、いったん寝床から離れて、心身をリラックスした状態にしてから、眠気を感じたら、再び寝床に戻るほうが好ましいです。

    (参考)
    精神保健福祉NEWSふくおかNO.32(平成31年2月発行)
    不眠症 – e-ヘルスネット – 厚生労働省

    不眠とうつ病との関連

    眠れなくなってしまう状態が長く続くと、不眠が慢性化して、不眠症となってしまうことがあります。不眠症になると、日常生活において、集中力・記憶力・注意力・判断力の低下、イライラ感・焦燥感の増幅、日中の眠気、無気力、仕事や運転中のミス、頭痛や胃腸の違和感などの身体症状、倦怠感か生じます。
    不眠はうつ病などの精神疾患が原因の場合も少なくはありません。

    近年は不眠とうつ病の関連性についての研究がなされ「不眠はうつ病になりやすい」といわれています。不眠の症状がある場合は、その後3年以内にうつ病になる可能性が4倍高まる、不眠が1年以上続いた場合にはうつ病になるリスクが40倍高まるという報告もあります。さらに、過去に不眠を経験した場合は、その後うつ病になる可能性が2倍高まるという研究結果もあるようです。このように、さまざまな研究から、不眠はうつ病を引き起こす原因の1つとして密接に関係しているとされています。

    出典:2006年,第47回日本心身医学会総会シンポジウム:心身機能と睡眠障害【睡眠障害の社会生活に及ぼす影響-駒田陽子、井上雄一】

    さらに、日本精神神経学会総会においては、不眠がうつ病再発のリスクを高める要因と報告されています。
    うつ病が軽快しても完治には至らず症状が残ってしまう場合に、うつ病のさまざまな症状のなかでも、不眠は残ってしまう頻度が高い症状の1つであると考えられています。うつ病が完全に完治せずに不眠などの症状が残ってしまった場合、再発するリスクが3~6倍高くなるといわれています。

    出典:第103回,日本精神神経学会総会シンポジウム【気分診療障害における不眠管理の実態とその問題点-三島和夫】

    このように、不眠とうつ病の関連性を考えると、どうしても不眠が治らないときには専門医に相談が必要と思われます。不眠症については精神科や心療内科で扱います。不眠でお悩みの場合は、まず医療機関に不眠について相談することから始めてみましょう。

    (参考)
    不眠症 – e-ヘルスネット – 厚生労働省