もしも転倒されたら
転倒シリーズはこれが最後の予定です。残念ながら施設内で転倒された場合を想定しますと、 まず施設側からご本人・ご家族へのお詫び、ご説明だと思います。施設側に責任がなかったとしても防ぎきれずに痛い目に合われているのですから、そこは率直なお詫びが必要ではないでしょうか? 何が起こったのかを正確にお伝えすることは重要です。しかし、最初はお詫びからではないでしょうか。
責任は?
刑事責任、行政責任、道義的責任。なんだか胸が苦しくなりますね。誰がどう判断するのでしょうか?裁判になるのでしょうか?難しい問題ですね。
え~職員がご利用者様を投げ飛ばした? そんなことを想像しただけで、事務長の私としてはめまいがします。当施設では考えられません。しかし、万が一、億が一、そのような場合、当事者はもちろん施設も責任は免れません。完全に事件です。
職員がご利用者様をお姫様抱っこしたら、手が滑って床に落としてしまった。これもいけませんね。これは事故だと思いますが。
もう少し、現実的に考えましょう。防げる事故だったのでしょうか? 防げない事故だったのでしょうか? 防げない事故の例として間隙(すきま)事故と同時事故があります。ある研修で弁護士さんに習いました。造語かもしれませんが、これらについてお話ししてみます。
間隙(すまき)事故
以前お話ししましたように、施設では1人の利用者様に365日24時間、付きっ切りにはなれません。転倒した場面を見ていないこともあるでしょう。それはやむを得ない理由だったのでしょうか?
やむを得ないと言えそうな理由の一つが、間隙事故です。
転倒していることに気がつく前、ご利用者様がお元気でいるのを最後に確認したのはいつだったのでしょうか? 誰が確認したのでしょうか? どんな状態だったのでしょうか? 例えば、いつも夜はぐっすり眠られている方が、今日もぐっすり眠っていらっしゃるのを5分前に巡回に行った看護師が見ていました。そして、そのまま隣りの部屋でおむつ交換をしていたところ、先ほどの部屋からドサッという音がしたので、すぐに部屋に向かったらぐっすり寝ていらっしゃっるとばかり思っていた方が転倒していました。これはやむを得ないかもしれませんね。
では、次に同じ方で別の事例を挙げてみます。いつもぐっすり寝られている方が職員の巡回の時に寝返りを打っていて珍しいなと思ったけど、たぶん大丈夫だろうとそのままにしてしまいました。その日職員は普段より忙しく疲れていたし、どうせ眠っているのだからと思ってしまいました。その後、次に職員が巡回に行ったのは3時間後で、その時点ではその方は既に床に倒れていて、いつ転倒したのか、転落したのかわからない状態でした。これは完全にアウトですね。施設の対応に問題ありと言わざるを得ません。
同時事故
もう一つ、同時事故とはどういう事でしょうか? 同時にいくつもの事が起こった場合です。Aさんは夜間転倒の心配があり、念のために夜中の1:00から3:00までは最低でも30分毎の巡回としていました。しかし、その夜は1:30の巡回の次が45分程空いて2:15になり、転倒され骨折してしまいました。転倒防止策が実行されたなかったのです。実は職員は2人で夜勤をしていました。1人の職員は別のBさんの健康状態の異変に気がつき、急いで当直医師を呼び対応していました。そのため、もう一人の職員は休憩時間でしたが休憩を切り上げて巡回に回りました。するとCさんとDさんが口論しており、今にも手が出そうな勢いです。やっと二人をベッドに誘導し、あわててAさんのところへ行くと既にトイレの近くで座り込まれて、結果的に「こけました。」(転倒しました)となりました。このように同時多発的な事象が生じて職員対応が遅れたような事例が同時事故と考えられます。ただ、仮に休憩中の職員がそのまま休憩を続けていれば、施設の責任も考えられます。
記録の必要性
記録は裁判の時には重要な証拠ですが、施設側の保身的な事情を考えるのは止めましょう。まずは何よりもご家族に正確に事実をお伝えするために、記録は必要です。私たちの振り返りにも大切な資料です。転倒の記録を何枚も見ていますと、転倒した時のことはよく書いてあります。いつ、どこで、だれがどのように転倒していたのか、だれが発見したか、が詳細に書かれています。その後のこともこと細かに書かれていることが多いようです。ところが事故の前の記録は書かれていないことがあります。
事故の後だけではなく、その前の最後の安全確認できた記録が必要です。また、事故が起こったそのときの当日勤務の職員全員はどこで何をしていたのか? そういった記録も必要です。ご本人・ご家族にきちんと全体の状況をご説明できれば、ご本人・ご家族の受け止め方はずいぶん違うのではないでしょうか?
研修で一番心に残ったこと
弁護士さんの研修はとても勉強になりました。でも、私が一番印象に残ったことは別にあります。というのは、この研修は施設長・事務長・看護部長さんたちを対象にしたものでしたから、事務長職を務める私にとって心に刻むべき言葉をいただいたことです。
それは弁護士さんの研修終わりの締めくくりの言葉です。「事故を起こさないことは重要です。円満に解決することも大事です。残念ながら裁判になることもあります。」「一番大事なのは皆さんが職員を守ることです。大事な高齢者が怪我をして職員さんは傷ついています。その職員さんを裁判でさらに傷つけてはいけません。」
私の仕事はご利用者様と職員を守ること。わかってはいても、事故が起こると、忘れてしまいそうになります。改めて、しっかり心に刻みます。