プロローグ

今回どうも手前味噌な感じで申し訳なく、冒頭におことわり申し上げます。
実は私のブログをご覧になった方から講師依頼が舞い込み、どう説明したらよいか、と大変悩んでいるテーマがありましたが、なんと私ども医療法人泯江堂の法人学会における老健からざステーション職員の発表のなかにヒントがありました。そのため灯台下暗し、そして手前味噌の話になってしまったわけです。

医療法人泯江堂の法人学会

令和4年6月2日と7月8日2日間に分けて、第14回医療法人泯江堂の法人学会を開催されました。例年年度末に開催していたのですが、コロナ禍でVIDEO学会となり、今年度は2回に分けての開催となりました。
法人学会では多数の演題の中から優秀作をブラッシュアップして、さらに外部の学会や老健大会で発表することが慣例となっています。今年度は精神科治療に関する演題、看護(ケア)に関する演題、業務改善に関する演題、認知症ケアに関する演題など8演題が報告されました。

からざステーションの通所リハビリテーションからの事例報告

私が講演テーマのヒントを得たのは、からざステーション通所部門からの発表「今のままの生活を続けるために~排泄ケア困難事例への介入~」です。
当施設には様々な方々が通所されておりますが、やはり一番多いのは認知症の方です。今回報告のあった方は、認知症が進行してきて出来ないことはあるけれど、そのことを受け入れられない事例でした。「私はできるはずだ。出来ないはずがない。出来ないなんて悲しすぎる。」そういった方なのでしょう。いわゆる失敗を受け入れられず、介入も受け付けません。プライドが高く、被害的になりやすい状態です。(本当はそういう方ではありません。この時はそういう状態だっただけに過ぎません)

「ケア」のはじまり

こういった方のケアがうまくいかないと強制的なケア介入(入院や入所)に結び付くこともあります。この方は独居ですので、生活が破綻してしまいます。ご家族が耐えられなくなるケースもあります。職員はそのことをよく承知しており、「何とか今後も在宅生活を継続していただきたい。その方らしく生活していただきたい。何とか自分たちが支援したい。」と考えたのでしょう。職員がまず「信頼関係を深める」ために「コミュニケーションを密に図る」ことを行いました。困りごとに直接介入しなかったのです。信頼関係などは一朝一夕にできるものではありません。この間にも認知機能の低下も困りごとも徐々にですが、進んでいきます。それでも職員はご本人の嫌がることはしません。この間約1年と8か月です。(気の短い私にはとてもできません)

ご利用者様の変化

こうした職員のかかわりの中で利用者様は少しずつ変わっていかれました。職員への気遣いが見られるようになられました。認知症と困りごとの進行が随分進んでいます。職員に「迷惑かけてごめんね。」と気遣っていただけるようになってきました。体調不良を理由にお休みも増えています。自信を無くし傷つかれていたのかもしれません。この間、約4か月。その後、困りごとそのものへかかわりが始まりますが、それでもひと工夫、ふた工夫の積み重ねです。

ケアを、そして職員を、少しずつ受け入れていただくようになる

ここまでもう2年のお付き合いです。それぞれの理解と信頼関係が熟するのに十分な期間です。一つひとつは書いてはいませんが、ボーッと過ぎた2年ではありません。職員がこの方のことを想い続け、工夫し続けた2年です。「どういうときに困りごとが起こるのか?」、「どういう声かけを嫌がられて、どう対応すれば、誰が対応すれば、受け入れていただけるのか?」職員の理解はやっと少し進んでいました。(少しと書かないと、全部理解したというのはおこがし過ぎるでしょう)

「困りごとへのお手伝い」

こうやってようやく困りごとそのものへのお手伝い(支援)が始まりました。信頼関係を築き、理解を深めた職員のお手伝いは見事に受け入れられました。そうなると(実は)「独りで悩んでいた。」と打ち明けられました。「どうしていいか、わからんやったとよ。」ともお話しいただけました。今でも困りごとは起こりますが、在宅生活は変わらず継続されています。
私は一番重要なことはこの方の自尊心が守られたことだと思います。困りごとの話ではありません。一番大事なことは高齢者の尊厳が守られることだと思います。職員は見事に守ったと思います。(完全な手前味噌です。笑)

からざメソッド ~強み再発掘~

これは法人学会で当施設の入所部門職員が発表したタイトルです。中身の詳細は内緒にしておきます。「裏技カード」なるものを作成して「独自で考えて行っているケア」を職員が書いてもろもろ集計や検討をしているのです。二つだけお伝えします。「独自」と言いながら多くの共通ケアがありました。「伝統」というのか「からざメソッド」なのか。からざ流というものが存在しました。もう一つ2番目に多かった「裏技」は「接遇」でした。

私の学び

月並みかもしれませんがやはり認知症ケアに「困りごとhow to」はないのですね。まずその方へのリスペクト(接遇)をもって信頼関係を築き、その人となりを理解して、尊厳を守っていく。困った人としてではなく、尊重される方として接していく。こういう事しかないのだと再認識しました。そこからでないと「お手伝い」が始まらないのですね。
繰り返し思い出す以前に退職した職員の言葉です。「ですから事務長!この人は前頭側頭型って人じゃないんです。何の何某さんで、こういう人生を送ってこられて、これが好きで、あれは嫌いなんです。そうして最後に前頭側頭型の認知症という病名が付いただけです。いい加減にしてください!!」 はい。すんまっしぇん。