医療機関で実施されるリワークプログラムは医療リワークと呼ばれています。

治療としての精神科リハビリテーション

はじめまして。油山病院のリハビリテーション部に所属しております公認心理師の奥田です。「リハビリテーション部」と自己紹介すると、「精神科にもリハビリがあるの?」と聞かれることがあります。確かに、精神科の治療と言うと、薬物療法やカウンセリングなどがイメージしやすいのかもしれませんが、社会に戻るためには、療養中に低下したこころ(自信)と身体の機能回復を図る必要性があるため、リハビリテーションも大事な治療となります。当院は福岡市内の民間病院では初めて精神科デイケアを開設するなど、早くから精神科リハビリテーションに注目し、取り組んできました。近年、患者様の疾患やニーズに応じてリハビリテーションを行う必要性が指摘されており、当院でも統合失調症やうつ病などの疾患別でリハビリプログラムを分けたり、就労訓練に特化したリハビリプログラムを用意したりするなどして、精神科リハビリテーションの充実を図っております。今回のコラムでは、その精神科リハビリテーションの1つである、リワークプログラム(以下:リワーク)についてお話させていただきます。

リワークとは

リワークは「return to work」の略語で、「Re-Work」と書きます。その文字の通り「再び働く」、「仕事に戻る」という意味があります。うつ病などのメンタルヘルスの不調が原因で休職している労働者が職場復帰と再休職予防を目的に受けるリハビリテーションであり、復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムとも呼ばれています。

医療リワークと、その他のリワークの違い

現在、リワークは、医療機関だけでなく、障害者職業センターなどの公的機関や福祉事業所でも実施されています。また、企業が社内で独自の復職支援プログラムを実施し、それをリワークと呼んでいるところもあります。これだけリワークを実施する機関が増えてくると、それぞれのリワークの違いは何なのか、疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私見ですが、医療機関のリワーク(以下:医療リワーク)は治療的な要素が高く、病状の回復と再発・再休職予防を目的としたプログラムを軸にリハビリが構成されています。一方、医療機関以外のリワークは仕事の訓練的な要素が高く、働くための能力や体力の回復を目的としたプログラムが軸になっています。企業内のリワークはそれに加えて、復職の可否を企業側で行うといった目的もあります。リワークの利用を検討する際、現在の状態や目的に応じて、利用する施設を選ばれると良いのかもしれません。

医療リワークのメリット(意味や支援)

メリット①:医療スタッフによる心理的フォローを受けながら、職場復帰の準備ができる
メンタルヘルスの不調により休職した方の治療目標は、職場復帰にとどまらず、復職後、再発せずに働き続けることだと思います。そのためには、病状の回復はもちろんのこと、再発しないための知識やスキル、例えば体調管理の方法やストレス対策などの技を身につけて戻る必要があります。近年、メンタルヘルスに関する書籍が充実し、ネット情報も溢れているため、一人で頑張ろうと思う方もいるかもしれません。しかし、休職中は、休職したことへの自責感や復職への焦り、再発や仕事に戻れるのか? といった不安が生じやすく、それらを抱えながら、職場復帰に向けた準備と再発予防策を身につけていくのは容易ではありません。医療リワークを利用すれば、医療スタッフによる心理的なフォローを受けながら、専門的な心理療法や作業訓練を受けることができるので、効率的に職場復帰の準備ができます。医療リワークの効果については、すでに数多くの研究報告がされており、リワークを利用すると再発予防と仕事復帰後の就労継続率が高くなることが認められています。

メリット②医療機関だからこそできる企業側との連携
復帰後の仕事内容やサポートの在り方などについては、医療リワーク利用中に休職者と職場関係者と面談を行うのですが、双方のニーズにズレが生じ、仕事復帰がスムーズに進まないケースは珍しくありません。職場復帰に際して、休職者が不安なように、受け入れる職場関係者も医療的な知識が充分でないため「治療継続中の復職者との関わり方」や「任せる仕事の量や質」が分からず、不安になられることが多いようです。医療機関のリワークスタッフは積極的に企業側と連携を図り、企業の不安を解消しながら、お互いのニーズを調整するなどして、休職者と企業側・職場関係者がお互いに納得できるような復職を目指していきます。また、復帰後も企業とは連絡を取り合い、時に、職場訪問をするなどして、リワーク修了者の職場定着を図ります。

医療リワークの具体的な取り組み

病状が辛い時期は、仕事などの刺激を遮断し社会から離れた場で療養することが必要です。しかし、そのような生活を長く送ると働くリズムが崩れ、体力が低下したり、人との接触や集団生活に不安感や緊張感を抱きやすくなったりします。働くリズムや人と接する感覚を取り戻すためには、外に出て家族や近親者以外の集団に入り、一緒に活動をすることが必要です。医療リワークは決められた曜日・時間に通所し、他の利用者の方と一緒にリハビリプログラムを受けるため、その感覚を早く取り戻せると言われています。それでは、具体的な医療リワークの内容について、利用開始から職場復帰までを3つの時期に分けてお話していきます。

第1段階:働くための土台をつくる
第1段階は、生活習慣の改善と基礎体力をつける事がリハビリの主目的となります。近年、運動や栄養、体内時計など生活習慣を整えることがメンタルヘルスに良い影響を与えることが分かってきました。心と身体に良いとされる知識を学び、より良い生活習慣が送れるよう改善していきます。基礎体力については、運動療法や作業活動(園芸やオフィスワーク)を通じて回復を図っていきます。

第2段階:休職要因を振り返る
この時期は休職した要因を探ることが目的になります。メンタルヘルスに不調をきたした際、職場や家庭内でどのようなストレスイベントが生じていたのか、また、そのストレスイベントに対して何を考え、どのような対処方法を取ったのかを振り返っていきます。この取り組みは、過去の辛い体験を振り返り、自身の苦手な事柄に向き合う作業のため、リハビリ負荷としてはかなり高いプログラムになります。しかし、職場ストレスへの効果的な対処方法を見つけるためには、自身の苦手な職場ストレスを見つけ、通用しなかった対処方法が何なのかを明確にすることが重要なのです。

第3段階:新しいストレスの対処方法を身につけて職場に戻ろう
自己分析活動を通じ、苦手なストレスイベントや対処方法の課題が見つかれば、いよいよ、それに応じた対処方法を学び、身につける段階に入ります。例えば「仕事の抱え込みが原因で体調を崩したケース」を考えてみましょう。他者に相談や協力要請ができず仕事を抱え込んだのであれば、コミュニケーションのコツを学び、そのスキルを身につけていきます。また、「与えられた仕事は自分ですべきだ」といった考え方が強くて仕事を抱え込んだのであれば、窮屈な働き方に陥らないように考え方を整える練習を行います。これまでと同じ働き方・ストレスの対処方法では同じ結果になりかねません。医療リワークで学ぶストレスの対処方法を活用し、直面する職場ストレスに対応していきましょう。

医療リワークを経て、さまざま道の選択も

以上、簡単ではありますが、医療リワークについて紹介させていただきました。私自身、医療リワークに携わり、10年が経過しました。医療リワークを通じて出会った休職者の方の殆どが職場に復帰され、現在も元気に働いておられます。しかし、なかには、医療リワークの利用を機に人生そのものを考え直し、転職されたり、別の道を選び進学されたりする方もいらっしゃいました。医療リワークは、職場復帰と復帰後の職場定着を図るために開発されたリハビリプログラムではありますが、休職者の方の人生そのものを考える時間と場を提供しているように思えてなりません。復職することも含めて、ご自身に適した人生の選択をお考えいただく機会でもあるわけですから、一人で悩まず、お気軽にご相談いただければ幸いです。
[補足]当院のリワークは日本うつ病リワーク協会正規会員施設であり、スタッフ全員が協会の研修を受けて資格を取得しております。また、うち1名は協会が認定する「専門スタッフ」資格を有しております。

リハビリテーション部 奥田一平(リワーク担当)


なお、これらの詳しい取り組みは当ホームページ「リワークプログラム」にも掲載しています。さらに以下のページもご覧いただきますようご案内いたします。
日経産業新聞で当院リワークが紹介される